父ちゃん

いつにも増して今年の桜は、あっという間に散ってしまいました。

歳を重ねるごとに、桜の見方は変わってくるけど、大人になってその花の美しさが

色や形ではなく、あっという間に散ってしまうその命の短さにあるのだと

その儚さにあるのだと知りました。

人の人生も同じでしょうか。どれだけ生きたかよりも、どうやって生きたか。

なんだか忙しない世の中で僕はちゃんと生きてるんでしょうか。

あの頃は全部が夢だった。全部が憧れだった。

あの遊園地は今頃、どうなっているんだろう。

あぁ 愛するとは 悲しみとは やさしさとは なんですか

あなたがいなくなってから、たくさんの人に助けられました。保護観察委員の小林さん

ヒマワリ園のトシ江先生、 与田のおじちゃんは去年警察を退職されました。

親代わりだったおじちゃんは未だに僕の事を心配してくれてます。中学で一時グレかけた僕を

身体を張って守ってくれたのもあの人でした。そしてあの人だけはあなたのことを

絶対に悪くは言わなかった。僕にも「決してあなたを恨むな」と言いました。

恨んでなんかいないのに。 あなたが出所した後、僕を引き取らず償いだと言って

朝も昼も夜も、馬車馬のように働いて死んでいくあなたを

恨んでなんかいなかったのに...。

あぁ 生きてくとは 裏切るとは 傷つくとは なんですか

母さんは最後に言いました。「ありがとうね」って言いました。

僕はまだ小さくてそれが最後の言葉だなんてわからなかったけど

まわりの大人たちが泣いてたから、たぶんもう母ちゃんには逢えないんだって

そう思いました。覚えてますか?あのジェットコースター。

今思えば子供だましの小さなジェットコースター。何度も乗せて欲しいとせがんでは

あなたを困らせましたね。 いつか親子三人であれに乗って、普通にアイスクリームを食べて

普通の幸せってやつを感じてみたかったよ。自分の子供にはね絶対にさせないよそんな思い。

ただね、僕は愛されてないなんて一度も思った事はないんだ。あなたも母さんも一生懸命愛してくれた。 僕を守ろうとしてくれた。 大切な人を守り抜くこと

あの頃のあなたの歳に近づいてようやくわかったような気がするよ。

あぁ 愛するとは 信じるとは 忘れるとは なんですか

あの頃の僕たちには何もなかったけど、今思えば何でも手に入る気がしてた。

ナキムシ遊園地の帰り道、あなたは必ず手を繋いでくれて、そしてこう言うんだ

「明日は今日よりもいい日になるぞ」って。不思議と勇気が湧いて来て、不思議と

涙が溢れたんだ。 今でもね、通勤帰りの電車の中でこっそりそう思うんだよ。

「明日は今日よりもいい日になるぞ」って。

豪快で太陽みたいでぶっとくて涙もろくて、父ちゃんあんたは最高の父ちゃんだったよ。

息子として誇りに思う。

それじゃ、そっちであんまり酒なんか呑み過ぎないようにね。

さよなら、おやびん。

あぁ あぁ あぁ あぁ あぁ

あぁ 愛するとは　愛するとは…