Kawaranaimono

「あいにくの雨だね」

肩についた水滴払いながら

席に着いたあなた

少し痩せた 頬に杖をついて

トランクを携えて

２年振りこの街のファミレスは

お昼時だというのに

不思議なほど気怠さが漂う

あなたそんな風に

乾いた声じゃなかった

あなたそんな風に取り敢えず

笑ったりしなかった

かわらないものが

ひとつあればいいのに

「帰る暇もなくてさ」

訳もなくそんなこと言ってみたり

やけに晴れやかなフリ

みっともない そんなことわかってる

何にだって染まらず

誰のものにもならず

生きたつもりの日々

無視した愛の数はいくつになるでしょう

あたしこんな風に

臆病じゃなかった

あたしこんな風に優しさを

怖がってなかった

かわらないものが

ひとつあればいいのに

「あいつもうこの街にはいないってさ」

「あの子確か去年別れたってさ」

「あの人疲れて部屋で一人死んだってさ」

あの頃の僕らは

守り方さえ知らずに

「ごめんね」と言えない幼さを抱いて

真っ直ぐ立っていたね

かわらないものが

ひとつあればいいのに

「あいにくの雨だね」

そう言うと手を振って街に溶けた